午後からやっと本格的に傍聴することができました。
この「中編」では、ぼくが傍聴した裁判の概要をまとめています。
その前に206号法廷の1日のタイムテーブルを振り返ります。
静岡地裁2015/12/03 206号法廷の開廷表
(1)09:50−09:55 覚醒剤取締法違反 男性 判決
(2)10:00−11:00 建造物侵入、窃盗 男性 新件
(3)11:00−12:00 過失運転致傷、道路交通法違反 男性 新件
昼休み
(4)13:30−14:30 住居侵入、窃盗 女性 新件
(5)14:30−15:30 建造物侵入、窃盗 男性 新件
(6)15:30−16:30 詐欺、覚醒剤取締法違反 男性・女性 新件
ぼくが傍聴したのは(4)〜(6)の裁判です。
(4)住居侵入、窃盗 女性 新件
ぼくが人生で初めて傍聴した裁判です。
開廷前に被告人の女性が入ってきました。
「知的障害か自閉症っぽい」というのがぼくの第一印象でした。
(ぼくは障害者の施設で3年間はたらいていました。)
被告は40代女性。やはり療育手帳をもっていましたが、精神鑑定の結果は「判断能力あり」。
中学卒業後、美容学校へ。いまは無職のようでした。
過去にも5回窃盗で捕まっています。
起訴状の内容や被告の証言から事件の概要をまとめました。
「ある夜、知人宅に泊まった被告は深夜にタバコを買いにでかけました。
帰りがけに、ふとみると住宅の窓が開いており、そこから侵入。
金銭やお菓子、ペットボトル飲料を盗もうと思ったそうです。
家主が物音に気づき、ライトで照らしたところ被告を発見しました。」
傍聴席には被告の母親がきていました。
被告は法廷に入った時から母親を見つめ、涙ぐんでいました。
開廷前に検察官と弁護人が話しこんでいます。
内容をうかがうと「社会福祉士」などのワードが聞き取れました。
被告は隣に座っている女性刑務官と会話する様子もみられました。
刑務官の接し方が柔らかく、知的障害のある被告をサポートしているようにも見えました。
(5)建造物侵入、窃盗 男性 新件
被告は左足を引きずって法廷に入ってきました。
被告人席に座る様子をみると、左足が曲がりにくいようです。
緊張感がなく、「法廷慣れ」してる印象です。
被告は60代男性。住所不定無職で独身。20年もの間ホームレス生活でした。
窃盗や傷害などの前科が3件。ほかにも4件の前科があります。
若い頃、自転車で転んで左足を骨折しましたが、病院へ行かず、骨が曲がったままくっついてしまったそうです。
そのため仕事ができなくなり無職に、足が動かなくてもできる日雇いの仕事でその日暮らしをしていました。
しかし、そんな仕事は少なく、支払いが難しく借家から出ることになりました。
しばらくは土地を借りて小屋をたてて住んでいたそうですが、タバコの火でボヤを出し、ホームレスに。
日雇いの仕事がないときはスーパーの廃棄弁当を食べて生活していました。
廃棄弁当がない日は賽銭泥棒をして食いつないでいました。
賽銭泥棒は「30回か50回くらいはやった」とのこと。
生活保護や障害年金を受ける話もあったそうですが、「混んでいるし、難しそうなのでやめてしまった」とのこと。
事件の概要
「ある夜、被告は納骨堂の施錠されていない窓から侵入。
鍵のかかった賽銭箱を、用意した鉄の棒で壊し、中の1915円を盗もうとしたところ、防犯装置が作動し発見されました。」
その寺院には以前にも賽銭泥棒に入ったことがあるとのことです。
被告人質問の場面では、調書の内容と違うこと言ったり、会話がかみ合わない被告に弁護人がイラ立つ様子もありました。
「反省して、おわびしたい」という被告に対して裁判長は「でも、おわびの手紙を書いたりはしていないですよね?」と。
被告「書く道具がなくてついつい…」
裁判長「賽銭泥棒をした他の寺院にはおわびの気持ちはないんですか?」
被告「捕まんなかったから」
裁判長「じゃあ、他の寺院にはおわびはしなくていい?」
被告「はい」
というやりとりもあり、もしかするとこの被告も知的にグレーかもしれません。
(6)詐欺、覚醒剤取締法違反 男性・女性 新件
206号法廷の今日の最後の裁判です。
開廷表の被告の名前をみると男女の苗字が同じでした。夫婦です。
法廷に入ってきた二人の被告の見た目と、傍聴席の団体で「カタギ」でないことはすぐわかりました。
被告は40代の夫婦。夫は建設作業員(元暴力団組員)、妻は無職。
事件の概要(詐欺)
「家賃の滞納があり、借家を出るように言われてた夫。
不動産屋では暴力団組員の入居は断られるため、契約者を妻にし、組員であることを隠して入居した。」
事件の概要(覚醒剤取締法違反)
「詐欺容疑で逮捕された際に、夫から尿検査で薬物反応が出た。
妻も同様の薬物反応があったため、事情を聞くと容疑をみとめた。
覚醒剤は夫が売人から購入。自宅にて妻と注射器で使用したとのこと。」
もともとの借家には夫の両親、夫婦の子ども3人で同居。
母は脳梗塞で半身麻痺になり、介護が必要。子どもが中3で高校受験をひかえた年末に10日以内に借家から出て行くように家主から言われたそうです。
年末年始は役所で引っ越の手続きなどができないし、子どものために早く落ち着きたい、また、母が生活しやすい物件を、と思い、組員であることを隠して契約したと。
覚醒剤については元の借家の家主は親戚であったが、家賃を払えない状況を知っていながら、冷たく出て行くように言われて悔しく、つい使ってしまったと。
夫は涙ながらに話していました。
また、「女房には責任がありません、自分が全部やらせたんです。母や子どものためにも女房には執行猶予をおねがいします。」と家族思いな面がみられました。
被告が二人だったことと起訴内容も詐欺と覚醒剤取締法違反のふたつだったこと、さらに夫の妹が証人として質問を受けるなど1時間30分の長丁場でした。
「福祉」が関係する事件が多い。
(4)、(5)の裁判はふたつとも障害者関係の話がでてきました。
「服役囚の4人に1人が知的障害者」
と言う話をご存知の方もいるでしょう。
法に触れる人というのは社会にうまく適応できない人が多いです。
知的障害者も社会にうまく適応できない人が多いです。
累犯者の中には「”外”よりも刑務所の方が暮らしやすい」と言う理由で、再び犯罪に手を染める人もいるそうです。
もちろん、被告個人にも責任はあります。
だた、「自己責任」という言葉だけで片付けていいのかどうか。
社会が彼らにできることは、ほんとうに何もなかったのか?と思ってしまいます。
おわりに
と、今回は裁判の様子を簡単にまとめてみました。
ぼくは法律の知識もなければ裁判の経験もないのですが、傍聴しているだけでも裁判の内容は理解することができました。
今回傍聴したのは刑事裁判でしたが、民事裁判は専門的な知識がないと理解しにくいそうです。
裁判の傍聴を初体験したら、おもしろ半分だった自分を反省した話(前編)
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